【還暦だから響く】枯葉(Autumn Leaves)に込められた人生と名演3選

ジャズのスタンダードの中でも、最も多くのミュージシャンに演奏されてきた名曲「枯葉(Autumn Leaves)」。
若いころは“おしゃれなバラード”として聴いていたこの曲も、
還暦を迎えたいま聴くと、まるで自分の人生を映す鏡のように感じます。

今回は、「還暦だからこそ理解できる『枯葉』の物語」と、
人生の深みを感じさせる名演3曲を、ベーシストの視点で紹介します。


還暦だからこそ理解できる「枯葉」の物語

「枯葉」は1945年、戦後のフランスで作曲家ジョゼフ・コスマ、詩人ジャック・プレヴェールによって生まれました。
原詩の冒頭はこうです。

Les feuilles mortes se ramassent à la pelle
(落ち葉はシャベルで集められる)

若いころは“別れの歌”“失恋の歌”として聴いていたこの詩。
けれども人生を重ねた今、この歌は喪失の中にある静かな希望の歌に聴こえます。

季節が巡るように、人もまた折り返しを迎え、新しい景色を歩き始める。
枯葉は散って終わるのではなく、土に還り、新しい命を育てる。

還暦を過ぎたいま聴く「枯葉」は、
“終わりではなく、再びグルーヴを刻み始める音楽”。
まさに、折り返しの人生に寄り添う一曲です。


人生を映す『枯葉』の名演3選

🎤 1. Sarah Vaughan with Joe Benjamin《Autumn Leaves(1955)》

  • アルバム:Sarah Vaughan in the Land of Hi-Fi
  • ベース:Joe Benjamin

サラ・ヴォーンの「枯葉」は、恋の痛みを越えた“成熟した愛”を感じる名唱。
そしてその歌を下支えするジョー・ベンジャミンのベースは、
派手さはないものの、包み込むような温もりを持っています。

彼の低音は、まるで人生の折り返しに差し込む陽だまりのよう。
サラの歌声をやさしく抱きしめ、音楽全体をあたたかく包みます。

音で支えることの尊さ——それを知っているのは、
年を重ねたプレイヤーだけかもしれません。


🎺 2. Miles Davis & Cannonball Adderley with Sam Jones《Autumn Leaves(1958)》

  • アルバム:Somethin’ Else
  • ベース:Sam Jones

イントロの静寂、そしてマイルスのミュート・トランペット。
その背後で流れるサム・ジョーンズのベースは、まるで“時の流れ”そのものです。

彼のベースは一歩引いた位置から全体を支え、
派手ではないけれど、どこまでも深く、どこまでも確実。
その安定感が、マイルスの冷たい音色を浮かび上がらせます。

若いころには気づけなかった「音の間」の美しさ。
それを教えてくれるのが、サム・ジョーンズの“沈黙のグルーヴ”。


🎹 3. Bill Evans Trio with Scott LaFaro《Autumn Leaves(1959)》

  • アルバム:Portrait in Jazz
  • ベース:Scott LaFaro

スコット・ラファロの「枯葉」は、若くして命を絶った彼の“永遠のメッセージ”。
ピアノと会話するように動くそのラインは、
単なるウォーキングではなく、生きることそのものを表現しています。

音が立ち上がり、消え、また次の音が生まれる。
その一瞬一瞬に“今を生きるエネルギー”が宿っている。

枯葉は散っても、音は残る。
ラファロの一音には、「折り返しの人生」を照らす光が宿っています。


🎬 まとめ 〜 ベーシストで読む“枯葉”の人生 〜

人生を“1曲のジャズ”と見立てたとき、
ソロが終わってテーマに戻る瞬間——それが「折り返し」の今なのかもしれません。

若いころの演奏はイントロ。
還暦からは、経験を音に変える“折り返しのグルーヴ”

ここから先は、これまで積み重ねてきた時間を抱きしめながら、
自分のテンポで、新しいリズムを刻む季節です。

  • ジョー・ベンジャミン:包容力と優しさ。人を支え、受け入れることの美しさ。
  • サム・ジョーンズ:静かな強さ。目立たずとも、揺るがぬ信念で歩む人生。
  • スコット・ラファロ:永遠への祈り。限りある命が放つ、一瞬の輝き。

それぞれのベースが語る“枯葉”は、まるで私たちの人生そのもののようです。

人生の折り返しは、終わりではなく“もう一度テーマを奏でる”時間。
ベースを弾くたびに、“今、この音が生きている”と感じられれば、それでいいのです。

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